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高酸素濃度活性汚泥法

※本ページは『水浄化フォーラム』より転載しています。
<謝辞>
 「水」の安全確保と環境保全に係る知識と技術を、「水の浄化」に関わる方への参考となるサイトとして『水浄化フォーラム』を執筆・編集・管理いただい
​ ている環境技術学会 村上理事に心より感謝申し上げます。

 

ご注意)当社は高酸素濃度活性汚泥法の可能性について検証中です。
    ここでは『水浄化フォーラム -科学と技術-』掲載の実験結果を掲載します。
    高酸素濃度活性汚泥法に『KAB』を用いて排水処理を行うことで、より効率的な処理が可能になる可能性があります。
    しかし、排水の負荷が比較的安定している業種(下水処理場や製紙・パルプ工場、化学工場等)での有効性が高く、
    負荷変動の大きい食品製造工場等での安定的な稼働は検証中です。
​    また、通常の曝気方法とは異なる点、酸素の供給ではなく、闇雲に空気で曝気量をあげると電気使用量の高騰につながる
    など運用上の注意もありますのでご留意ください。

 

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1.はじめに

 
 生活系排水など、微生物を用いた生物法では、汚濁物質を摂取した微生物が増殖するため、この増殖した微生物(汚泥)の処理・処分が必要となる。
 家庭排水を例に上げると、1日1人当たりの排水量200L、そのBODを40g/人とし、生物処理における汚泥変換率0.5~0.8とすると、生成する汚泥量は20~30g/日/人となる。含水率98.5%の濃縮汚泥に換算すると、1.3~2.1L/日/人となり、5人家族で1年間では2.4~3.8m3もの汚泥が発生することとなる(図1)。

図1 生活排水の浄化に伴う汚泥の発生量.jpg

図1 生活排水の浄化に伴う汚泥の発生量

 
 余剰汚泥を削減する方法として、余剰汚泥を基質化処理して曝気槽へ返送し、好気的に消滅させる方法が開発・実用化されている。余剰汚泥の基質化法には、様々な方法が提案されている[1, および総目次に示すページ Ⅶを参照]。
 酸素曝気型活性汚泥の歴史は古く,実施設例も少なくない[2]。本法は、1) 高負荷・負荷変動に対して安定、2) 沈降・凝集性に優れ、バルキングがない、3) 余剰汚泥の生成量が少ないなどの特徴がある。
 以上の背景を踏まえて、次の目的で実験を行った。
 1) 酸素濃度を高く保持する(DO>10mg/L)ことにより、活性汚泥の増殖速度と自己分解速度が等しく、かつ、その状態が安定に保持できるかどうか。
 2) その安定な系の活性汚泥を構成する微生物群の種類は、標準の活性汚泥(DO:1~数mg/L)を構成するものと異なるものかどうか、遺伝子解析により確認すること。
 3)数年間にわたる実験の結果、DO>15mg/L以上の条件で、余剰汚泥の発生しない系が成立し、その微生物群の構成は標準型のものと種類が異なることが確認できた(図2)。

図2 標準および高酸素濃度の活性汚泥法の比較.jpg

図2 標準および高酸素濃度の活性汚泥法の比較

2.実験方法

 
(1)実験装置
 実験システムの概略を図3に示す。曝気槽、沈殿分離槽(以下、沈殿槽)、汚水供給、酸素ガス供給から構成される。同じ構成の実験装置を用いて、酸素曝気系と空気曝気系の2系列を稼働した。


(a)曝気槽
 曝気槽は、有効容積3Lの密封ガラス製容器で、温度を一定に保つために恒温水(25℃)を循環できる構造となっている。
 汚水・酸素ガスの供給、曝気槽から沈殿槽への送液、分離汚泥から曝気槽への汚泥返送は、全て、曝気槽上部から内部に向けてゴム栓で装着したステンレス管(内径3mm)にシリコンチューブ(内径3mm)を接続して行った(写真1・右)。


(b)沈殿分離槽
 有効容積3Lの三角錐型沈殿槽で、分離汚泥は全て曝気槽へ返送した。


(c)送液ポンプ
 汚水供給ポンプは、小型ダイヤフラム定量ポンプで6L/日(Q)に設定し、曝気時間(汚水滞留時間)は12hとした。
 曝気槽から沈殿槽への混合液の移送は、先端を曝気槽水位(3L)の位置に固定したステンレス管に接続したチューブ定量ポンプにより、送液量2.5Qに設定して、流入量に対応した量の混合液を吸引・移送し、曝気槽内の水位を一定に保った。
 沈殿槽で分離した汚泥は、チューブ定量ポンプにより、流量Qで曝気槽へ返送した。


(d)曝気槽内DO制御
 小型の密封型曝気槽で、DOセンサを槽内に浸漬できないことと保守管理の視点から、混合汚泥の検液をDO測定セット(図4)に循環してDO測定を行った。曝気槽内のDOは、酸素ボンベ(減圧・流量調整器付き)に接続した電磁バルブを開閉して酸素ガスを供給し、DOを所定の値に設定した。空気曝気系は、酸素ボンベの代わりにダイヤフラム式ポンプを置き換えた構成で実験した。

図3 高酸素濃度型活性汚泥法の室内実験装置の概要.jpg

図3 高酸素濃度型活性汚泥法の室内実験装置の概要
A:曝気槽(3L)、S:沈殿槽(3L)、SD:攪拌機、F1:供試原水、F2:放出水、P1~P3:定量ポンプ、OC:純酸素ボンベ、O1:酸素供給、O2:ガス排出、FC:減圧・流量調整器、DO:DO計測制御器、MV:電磁バルブ、TW:恒温循環水、TS:恒温水槽

図4 溶存酸素濃度測定センサーのユニット.jpg

図4 溶存酸素濃度測定センサーのユニット
T字塩ビ管継手に、DOセンサーと検液循環チューブを装着したもの

写真1 実験装置の様子1.jpg

写真1 実験装置の様子
(左)装置全景、A:曝気槽、S:沈殿槽、W1:汚水貯留槽、W2:処理水槽、P1:汚水供給ポンプ系、P2:送液ポンプ群、C:制御系;(右)曝気槽

(2)供試汚水
 実験には、有機物としてスキムミルクを、pH調整剤(処理水のpH6.5以上を保持)としてNaHCO3-Na2CO3を成分とする模擬生活排水を用いた(表1)。この汚水の汚濁指標(mg/L)は、BOD 200、COD 200、TOC 160、TN 64、TP 4.1である。曝気槽3Lに対して300mg-BOD/Lを6L/dとしたので、容積負荷は0.4kg-BOD/m3である。

 

表1 模擬汚水の成分(水道水10L中).jpg

表1 模擬汚水の成分(水道水10L中)

(3)運転管理
 毎日とは、正月・盆を含む全ての祝日にも、保守点検を行った。

(a)供試汚水
 毎日、10Lの供試汚水を調整した。

(b)実験装置の保守点検
 毎日: 各送液ポンプの稼働状況、チューブ系の破損・閉塞・漏洩、酸素ガスの供給状況、曝気槽・沈殿槽の状況、処理水中の流出汚泥など、点検を行い、適宜対応した。

(c)測定項目
 曝気槽の容量が少ないので、測定用の活性汚泥の採取量はなるべく少ない量とした。
 毎日: pH、DO
 毎週3回(月、水、金): MLSS(安全ピペッター装着25mLホールピペット用いて、曝気槽から直接採取)
 毎週1回(水): 活性汚泥の沈降特性(100mL試験管に70mL採取して測定)、処理水中のBOD、TOC


(4)遺伝子解析
 活性汚泥微生物群のDNAを抽出し、1) 16S-rRNA断片をPCR法によって増幅し、2) DGGE法により展開し、3) 得られた各バンドを切り出してシーケンス解析による微生物群の構成を検索した。本法の詳しい説明は別のページで記載することとし、ここでは省略する。

 

3.実験結果


(1)実験日数
 各DO設定値における実験期間は200日以上とした。全ての実験期間中、測定用サンプリングを除いて、汚泥の引抜は行っていない。

(2)活性汚泥の状況
 空気曝気系と酸素曝気系の活性汚泥の沈降特性の一例を写真2に示す。
空気曝気系では、沈降界面が明確でなく、上済み液中に解体した汚泥が存在した。酸素曝気系では、汚泥界面が明確で、上澄み液中に解体汚泥は殆ど存在しない。(沈殿池の基礎-図1、参照)
全ての実験期間中、このような汚泥の沈降特性は同様な状況であった。このため、空気曝気系では、処理水中に流出汚泥が観測された。
 酸素および空気の散気よる両活性汚泥処理も、汚泥引抜なしで実施され、以下の結果となった。
1)酸素システム:活性汚泥は変化を示さず、安定していた。
2)空気システム:活性汚泥は約1か月で劣化し、沈降汚泥の界面が無く、汚泥と処理水を分離できなかった。そこで、新しい汚泥種で再実験を繰り返した。

 

写真2 活性汚泥の沈降特性の一例1.jpg

写真2 活性汚泥の沈降特性の一例
(左)観察開始時、(右)圧縮沈降時; ➀:空気曝気系汚泥、➁:酸素曝気系汚泥


(3)酸素消費量
 純酸素および空気の散気のいずれによっても、生物酸化に必要な酸素消費量は同じである。一方、汚濁物質が消失すると、DOは急激に上昇する(別ページVの図1を参照)。このとき、飽和に達したDO値は、酸素分圧と酸素移動係数に依存する。
 以上のことから、純酸素の散気量とDOの設定値に間に大きな差異はない。このことから、高酸素濃度型活性汚泥において、酸素ガス消費量は設定DOに大きく依存することはない。高いDO設定においては、僅かな酸素ガスの供給量の増加のみである。


(4)DOとMLSSの関係
 3Lの小型密封容器であるため、電磁弁の開閉による正確なDO制御は困難であった。特に、DOの計測は混合液を外部測定セット(図4)に循環して行ったため、応答に対する時間的な遅れが大きな要因と考えられる。目標とするDO値に対する実際のDO値は、その設定値が高くなるほど、そのDOの振れ幅が大きくなった。MLSSも測定誤差に加えて、数十日単位での変動幅が観測された。
 図5にDOとMLSSの関係を示す。この関係図から、DOが15mg/L前後を境に、DOとMLSSの関係に大きな差異が認められる。

 

図5 溶存酸素濃度DOと活性汚泥濃度MLSSとの関係図.jpg

図5 溶存酸素濃度DOと活性汚泥濃度MLSSとの関係図
A:空気曝気、B~D:酸素曝気


(5)微生物群の遺伝子解析
 PCR-DGGE法の一例を写真3に示す。この解析事例は、DOの設定値を2mg/L(空気)、10mg/L(酸素:窒素 = 4:1)、15mg/L(酸素)に対するものである。酸素・窒素混合ガスの実験は、実用化における吸着分離式酸素発生装置による酸素曝気を想定したものである。
 各DOにより、活性汚泥の微生物群の構成パターンは、いずれも大きく異なっている。空気曝気と混合ガスでは、同一種が多く認められるが、酸素曝気では前記2例とは異なる生物種が少なからず存在する。
参考までに、酸素曝気系の確認できた生物種の存在比(%)は、Haliscomenobacter 33、Ferruginibacter 14、Pontibactor 7、Acidovorax 6、Fluviicoda 4であった。
 なお、微生物群の遺伝子解析は、1) 同一の生物群相が各実験系DO環境の変化に対応したものか、2) DO環境に適した新たな生物群相が構成されたものか、を確認することが目的であった。

 

写真3 16S-rDNA解析(PCR-DGGE法)による活性汚泥・微生物群の比較.jpg

写真3 16S-rDNA解析(PCR-DGGE法)による活性汚泥・微生物群の比較
(左)空気曝気(DO 2mg/L)、(中)混合ガス(酸素:窒素 = 1:4)曝気(DO 10mg/L)、(右)酸素曝気(D0 15mg/L)


(6)処理水
 処理水貯留槽の上澄み液中のBODおよびTOCを測定したところ、全ての実験系・期間中、90%以上の除去率であり、この除去率の範囲において大きな差異は認められなかった。
 処理水のpHは、空気曝気系ではpH6.5前後、酸素曝気系では8.0前後であった。この差異は、散気中の炭酸ガスの有無によるもと思われる。

 

4.結論と課題


(1)まとめ
 この一連の実験結果より、次の事項が定性的に確認できた。
  ①酸素曝気では、沈降界面が明確で沈降分離効率が良好な活性汚泥であった。
  ②曝気槽内のDO15mg/L前後を堺に、活性汚泥の微生物群の構成が大きく変化する。
  ③高溶存酸素系では、余剰汚泥の抜取りなし(細胞合成量≒自己酸化量)系が維持できる。


(2)課題
 小型密封容器での実験系であったので、DOおよびMLSSの変動幅が大きく、また、物質収支の数量化が不可能で、設計・運転条件の数値化が困難であった。スケールアップした検証実験が必要である。
 

参考文献


 1) 環境技術学会、2007年5月号:特集「汚泥減量化技術とコストダウン」
 2) 日本下水道事業団、昭和56年: 酸素活性汚泥法の評価に関する第3次報告書
 3) UNOXシステム・カタログ:酸素曝気方式活性汚泥システム

 

はじめに
実験方法
実験結果
結論と課題
参考文献
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